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Zone System

 アメリカの写真家、アンセル・アダムスは、被写体の明るさと露出、印画紙上に再現される濃度との関係を対応させて、一絞りごとの露光量と印画紙上に再現される濃度をゾーンと名付けて、被写体の露光域を印画紙上で真っ黒から真っ白まで10段階のゾーンに分けて調子再現を行う、被写体の輝度域に対する露出の決定方法を考案しました。それが、ゾーンシステムと呼ばれるものです。

 風景などの被写体の場合、その明暗の幅は、晴天時などの相当に被写体輝度域が広い場合は、9~10絞り分くらいです(光源など特殊な場合を除く)。アダムスは、その場合、フィルムに対する標準的な露光域も反射率18%のグレーを中心に前後5絞り、合わせて9~10絞り分と考え、反射率18%のグレーの露光量をゾーンVとして、シャドー部からハイライト部までを一絞りごとにゾーン0からゾーンXの10ゾーンに分けて、印画紙上に再現された10段階のトーンと被写体の明るさとを対応させました。

 もっと具体的に説明しますと、被写体輝度域が9絞り分くらいある場合、その真ん中ぐらいの所をスポットメーターなどの反射式露出計で測定した値(たとえば1/125、f8)をゾーンVとすると、その露出よりも3段階暗い部分(1/125、f2.8)をゾーンII、4段階明るい部分(1/125、f32)をゾーンIXとするわけです。

 これによって、被写体輝度域をゾーンの幅として考えて露出を決定すれば、撮影時にプリントの仕上がりをあらかじめ想定することができるとアダムスはしています。  各ゾーンと、それに対応する実際の被写体の例を以下に示します。

A.Adams "The Negative" より
Zone 説 明
Zone 0 プリントの完全な黒。ベース+かぶり濃度ではないが、プリントに使われないネガ濃度。
Zone I 感度基準点。完全な黒の次のステップで、わずかにトーンはあるものの質感は感じられない。
Zone II 質感がかろうじて感じられる濃度。暗い調子、イメージの内でほんのわずかディテールを必要とする暗部の描写。
Zone III 平均的な黒い被写体。十分に質感が分かる暗部。
Zone IV 平均的な濃い樹の葉、濃いグレーの石や風景の中の影の部分。太陽光下の白人ポートレートの影の調子。
Zone V 反射18%のグレー。パンクロマチックフィルムで再現される晴天北側の空、日焼けした肌、グレーの石、平均的な雨ざらしの木材。
Zone VI 太陽光や曇り空や人工光での平均的な白人の肌の調子。明るい色の石、日に照らされた風景での雪面上での影、パンクロマチックフィルムに淡いブルーフィルターを使用したときの晴天の空。
Zone VII 非常に明るい肌、明るいグレーの被写体。斜光線でたらされる平均的な雪面。
Zone VIII 質感のあるわずかな調子をもつ白。雪の質感、白人の肌のハイライト。
Zone IX 純白に近い質感のない白、Zone Iと同様に質感はないがわずかにトーンがある。太陽直射光下の雪。小型ネガを集光式引伸機を使用してプリントする場合には、Zone Xと見分けられない純白にプリントされるかも知れない。
Zone X 印画紙のベースの純白。ぎらぎらとした反射や画面内にある光沢。

このゾーンスケールは、実際の濃度とは対応していませんが、露出計などに貼って、イメージングの助けに使用してください。

[GIF]

ゾーンシステムの詳細は、いろいろな本に紹介されていますのでそちらを参考にしてください。おすすめは、写真工業出版社の「ファインプリントテクニック」(ISBN4-87956-029-4)です。

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調子再現の実践

 しかし、このゾーンシステムを実践するには問題もあります。 一つは、被写体のパートがどのゾーンになるか分からない、ゾーンスケールと実際の被写体との対応が難しいこと。もう一つは、ゾーンシステムが考案された頃と比べてフィルム、印画紙の特性・性能が進歩していることです。 そのために、よく本に紹介されているように、タオルやグレースケールを撮影してゾーンスケールを作っていく方法では、なかなか結果が出せないようです。

 そこで、私は、ここで、実際の風景を撮影して、その被写体輝度差でのISO相当感度、現像時間を求める方法を紹介します。

 被写体輝度差(以下輝度差)とは、被写体の一番暗い部分と一番明るい部分との、輝度の差のことです。表し方としては、EV値による差と、露出の段数や絞り値の差があります。たとえば、一番暗い部分の露出が1/60・f2.8とします。一番明るい部分の露出が1/60・f22のとき、その輝度差は6段ある(または6絞り分ある)といいます。
 場面場面によって異なりますが、晴天時・順光では、一般に輝度差が7~9段、曇天時には4~5段になります。本来はそのそれぞれに対しての感度・現像時間を求めるのがよいのですが、一つだけならば、一番撮影されることが多いと思われる晴天時を考えてみます。

用意するもの
  • 普段よく使うカメラ(マニュアル露出ができるもの)
  • 標準~広角レンズ
  • データが欲しいフィルム5~6本
  • 三脚
  • ケーブルレリーズまたはそれに変わるもの
  • スポットメーターまたは、カメラ内蔵のスポット露出計

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1.輝度差が7~9絞りになるところを探し、カメラのファインダを覗いてそれがすべてフレーム内におさまるようにセットします。

  • 右の写真の場面は、木の幹(黄)から貯水タンク(赤)まで、約7.5段の輝度差がありました。

2.スポットメーターの感度を、そのフィルムのメーカー公称感度にセットします。

3.その中の、わずかでも階調が欲しい一番暗い部分(黄)を探し、そこをスポットメーターで測光し、測光値をメモします。 (1)

4.次に、わずかに階調が欲しい一番明るい部分(赤)を探し、そこをスポットメーターで測光し、測光値をメモします。(2)

5.(1)(2)での測光値の差が、輝度差になります。

6.(1)で測光した部分はゾーンシステムでいうところのゾーンIIに相当します。輝度差が7~9絞りある場合、隣り合ったゾーンの差は撮影時の一絞りと同じくらいになります。スポットメーターで測光した部分は、その部分を18%グレー(ゾーンV)に再現する露出ですので、そこをゾーンIIに再現するには、(1)の値から3段分絞ります。 (3)

  • もし3.の測光値が1/60・f2.8ならば、1/60・f8になります。

7.(3)で求めた露出を基準値として、オーバー側に3段分、アンダー側に1段分の合計5つの段階露出をして撮影します。

8.それをフィルム5本くらい行います。

 

ここまでが撮影です。次に暗室作業に入ります。

用意するもの
  • 現像タンク・現像リール
  • データが欲しい現像液
  • 停止・定着液
  • データが欲しい中間調の印画紙(2号か3号)
  • その他現像・引き伸ばしに必要な道具

9.撮影したフィルムの内まず3本くらいを、メーカーが薦めている現像時間を基準に、1分刻みで減らしながら現像します。

  • メーカー推薦時間が7分の場合、5・6・7分の三種類の現像時間で現像する。
  • どのフィルムがどの現像時間で現像したか区別できるようにしておいてください。

10.現像したネガをプリントをします。

  • ネガには5種類の濃度のコマがありますが、はじめは、基準と、1段オーバー、1段アンダーの3種類のコマをプリントするとよいでしょう。プリントの濃度は、階調が欲しい一番暗い部分がわずかに階調があるような黒になるように、(あるいは、階調が欲しい一番明るい部分がわずかに階調があるような白になるように)調節します。

11.プリントを比べます。

  • 階調が欲しい一番暗い部分がわずかに階調があるような黒になるようにしたとき、階調が欲しい一番明るい部分がわずかに階調があるような白になっているプリントが、その輝度域を再現できる現像時間と感度になります。
  • もし、階調が欲しい一番暗い部分がわずかに階調があるような黒になるようにしたとき、階調が欲しい一番明るい部分が真っ白に飛んでいる場合は、コントラストがつきすぎ(現像時間が長いか、感度を低くしすぎ)ということに、またその逆ではコントラスト不足(現像時間が短いか、感度が高すぎ)ということになります。

 このような方法から、その輝度差を再現するための感度設定と現像時間が求められます。

 実際の撮影では、7段くらいの輝度差ならば、スポットメーターで階調が欲しい一番暗い部分を測定し、その測光値から3段絞った値で撮影し、求めた現像時間で現像すればいいわけです。

  晴天時のデータを作成しても、曇天など、輝度差が少ない場合は、このデータは使えませんが、目安として、晴天時よりも現像時間が多くかかり、感度も上昇することを覚えておいてください。

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